愛シテアゲル
「小鳥」
ギアを握っていた手が、今度は小鳥の上に優しく重ねられる。大きくて熱い手。汗ばんでいる手。指先は父親同様、整備のオイルで黒く汚れている手。
「いつも俺の傍にいてくれて、ありがとうな。どんな俺も知っていて、どんな俺も好きだと言ってくれるのは小鳥だけだ。それだけで俺はこうして……アクセル踏める、走っていける」
「うん。好きだよ。大好きだよ」
「俺は……、あい……」
え。なに?
ドキリと胸が高鳴った途端だった。優しく握られていた手を弾かれ、彼がギアを強く握り返す。
フロントへと視線を戻すと、ランサーエボリューションがスピードをあげ、MR2を引き離し始める。
「社長が出てきて焦ったのか。あのスカイラインの威圧がよほどだったみたいだな」
「え。まさかここまでのことやっておいて、逃げるつもりなの!?」
本当に卑怯! 手強い男が出てきたから、もうここでオシマイ? そのまま逃げる? だが翔がそこで教えてくれる。
「そういうヤツだよ。あの瀬戸田という男は――」
その男となにがあったのだろう? あのお兄ちゃんが憎々しい表情を刻んだ。