愛シテアゲル


『小鳥! ドアを開けて降りろ!』

 耳に付けている無線から、武ちゃんの声。でも小鳥は声で返答はせずそっと首を振り、耳からインカムを取り去る。

 私、ここにいる。彼の隣にいる。武ちゃん、父ちゃん、ごめんね。

「来い、これが望みだったんだろ。俺もエンゼルも、ぶっつぶせるもんならやってみろ」

 決して荒ぶるような声を張り上げない。でも低く震える声には、彼の秘めに秘めた怒りが込められている。

 小鳥はまた彼の手にそっと触れる。ぎゅっと握った。もう集中している彼は、さっきみたいに優しく重ね返してはくれなくても……。

「来い、来いよ――」

 望みどおりに白のランサーエボリューションも迷いなく停車しているMR2へと突進してくる。

 でも小鳥は翔の眼を見て察していた。お兄ちゃんは、最後の最後、あのランエボが衝突なんかしないで回避してくれることを信じているんだって……。だから小鳥もそれを信じる。私たちは潰されない。ランエボは、お兄ちゃんの昔の知り合いは、きっときっと。

 近づいてくる豪快なエンジン音。向こうの運転手の顔も見えた。すごい形相でこちらをまっすぐに見据えている。執念深い目、小鳥はさすがにゾッとする。それが翔に向けられている――。その恐ろしい念はランエボのエンジンに乗せてこちらへと突進してくる。

 ほんとうに、ほんとうに、衝突するの? されるの? そんなことしてどうなるの?


< 209 / 382 >

この作品をシェア

pagetop