愛シテアゲル



【 小鳥ちゃん、お誕生日おめでとう! 今度はふたりだけで飲もうね。 せっかくの誕生日じゃない。岬で決心を固めてきたんでしょう。思い切って今夜、翔兄を誘っちゃいなよ。私、絶対に翔兄は小鳥ちゃんのことを好きになっていると思う! 翔兄たら真面目すぎるから、『社長の娘』とか気遣ったりして、自分からはなかなか打ち明けてくれないと思うよ~。小鳥ちゃんからぶつかっちゃえ! 応援しているからね。また聞かせて♪ 】
 
 そんなメール。ケイタイを握りしめ、小鳥はハンドルに項垂れた。
 レガシィの助手席で打って送信してくれたのかと思うと、やるせない。

【 ありがとう。花梨ちゃん。今度、ゆっくり話そうね。今夜はお疲れ様 】―― そこまで打って、早く帰るんだよとか真っ直ぐ帰ってねとか……打てなかった。

「あーあ。花梨ちゃんにもっと早く報告しておけば良かった」

 まだ何も知らない親友の応援が身に染みる。

 ずうっと小鳥の片想いを見守ってきてくれた花梨ちゃん。真っ先にいちばんに報告したかったのに、まだ自分でも信じられなくて、実感が湧かなくて。そして、恥ずかしくて、照れちゃって、今日になってしまった。

 そして今夜――。どうなるのだろう。

 せっかくのお洒落もせずに、普段着。そのまま小鳥はシートベルトを締めるとエンジンキーをまわし、サイドブレーキを下ろし、アクセルを踏んだ。

 いまどきの大学生が乗っているには珍しい、90年代親父世代のスポーツカー。そのエンジンをひときわ高く唸らせ、小鳥はハンドルを回す。

 メールはもう一件、あった。

【さっき仕事が終わって自宅に戻った。サークルの誕生日会、大丈夫か。悪ふざけがエスカレートしないように気をつけて】

 彼が待っていてくれる。小鳥は港へ向かう。龍星轟のちかくにある港町、そこに翔は住んでいる。

 

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