愛シテアゲル


 彼がなにかで怒り狂っていることはわかった。
 だからって、だからって、憎い相手が好きな車を使って、その車を狙って、本人まで狙って。
 ここまでのことができるなら、どうして翔兄自身に飛びかかってこないの?

「俺が賭に負けたなら――。オマエだってお終いだ」

 ランエボのフロントがMR2へと接触……する……!

 小鳥の視界に、あの夜が蘇る。エンゼルに真っ正面からぶつかってこようとしたランエボ。さっき、海辺で翔がいる運転席に突っ込んでこようとハンドルを切ったランエボ。だけどもう彼はハンドルは切らない。

 翔が差し出すままそのままに、今度は白い車がまっすぐに突っ込んで……くる!

 ふっ、と。白いバンパーが弧を描いてすり抜けたのが一瞬見えた。

 瞬間、MR2が急発進をする! 小鳥の後ろ頭がシートに強く押し付けられるほどの。
 タイヤをキュルキュルと鳴らすエンゼルがまた激しいエンジン音を響かせ、力強く前進している。

 エンゼルの真横に真っ白いランサーエボリューションが並んでいる。
 二台がぴったりと並んで、ついにダム湖駐車場になだれこんでいた。



< 210 / 382 >

この作品をシェア

pagetop