愛シテアゲル


 男同士の決着。だから邪魔をしちゃいけない。父親が言ったとおりに大人の顔をして我慢をしていたが、もうダメ。小鳥は飛び出し、翔より背が高いワイシャツ男の身体へと飛びかかり、振りかざされた腕を止めようとする。

 殴らないで。お兄ちゃんを殴らないで――! 

 男と翔の間に飛び込んだ小鳥は、その一心で男の腕を、腕を止めようと……。男の拳が目の前にあった。厳つい拳骨が小鳥の両目に向かって飛び込んでくる!

 その時なんて、ほんとうに一瞬。小鳥の頬は真横に跳ねとばされ、身体は白いランエボの車体に叩きつけられた。

 小鳥――! 翔の声。

「うっ、うっ」
 翔兄……。翔兄……。

 そう呟いているつもりだったのに、声がでなくなっている。そして僅かに動いた口の中、変な味がする。口の中が切れている――。殴られて、切れたのだと知った。

「小鳥、小鳥、ど、どうして――」

 すぐに彼の大きな手が、小鳥の顔を包み込んでくれている。
 熱い彼の手を感じ、目が霞みそうなほどの痛みのなか、小鳥はやっと目を開ける。

 青ざめた翔兄の顔、小鳥の顔をすごく慌てた顔で殴られた頬を確かめようとしている、その真上――、小鳥はまた悪魔の形相に気がついてしまう。

「お、おにいちゃん、うしろ……っ」



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