愛シテアゲル


 でも狂った男の怒声なんて、もう聞こえないほど……。
 小鳥は自分を守ってくれる翔をそのまま抱き返した。

 次に小鳥の中に沸いてきたのは、とてつもない怒り! 

 コイツ、やっぱキチガイ。ひどいよ。もの凄く腹が立つ。なんなのよ、あんたが何台もの車に迷惑をかけた理由って、つまり色恋沙汰だったわけ? それってお兄ちゃんをおびきよせるためにやっていたわけ? それだけのことで、幾人もの関係のないドライバーを巻き込んだわけ? 好きでもないランエボを使ってそれだけのことをやったわけ? 許せない!!

 そんなヤツにお兄ちゃんがいいように傷つけられるだなんて、私が許さない!

 翔を突き飛ばして、彼が自分のために無抵抗になる体制を変えようとした、その時。小鳥の目の前から、瀬戸田という悪魔がふっと消え去った。瞬く間に……。

 え……、なにがおきたの?

 やっと翔を突き放し広がった視界にみえたものに、小鳥は唖然とする。

 そこにはさらに恐ろしい形相の男が瀬戸田を掴み上げ、誰もなにもいえないうちに、ガツンとぶっ飛ばしている姿が――。

「と、父ちゃん――」

 翔と小鳥の目の前に、龍星轟のジャケットを羽織った大きな背中が立ちはだかっていた。



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