愛シテアゲル


 アスファルトに腰を落とした瀬戸田が、さすがに縮み上がっているのが見て取れた。

 元ヤンの龍とよばれる男がマジギレしたら、たったひと吠えでその恐怖を味わう。それを物語っている姿だった。

「そっちの素性もわかったし、こっちは顧客が迷惑かけられたんで被害届を出す。それについてなにか意見があるなら、三日の間に店に来い。来なかった場合は顧客と被害届を警察に出す。俺の用事はそれだけだ」

 ほんとうにそれだけしか言わず、それ以上のいままでの怒りを爆発させることはなかった。

 でも小鳥はそんな父親の背中に、無言でも密かに淡く揺れ動いている青い炎を見た気がした。

 くだらねえ。若いてめえらの、惚れた腫れただけのことで、どんだけの無関係の車を巻き込んで迷惑をかけやがったんだ――。小鳥と同じ怒りを携え、でも、ここでひと思いに感情任せに解決しようとしない。

 その気持ちはあれど、きちんと収める方法が先にある。
 まずはそれを踏まえてからだ――。そう言っているように聞こえた。



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