愛シテアゲル


 この部屋は、あの大人の女性が長く通ってきた場所。
 この前も、平気で翔兄のベッドルームに入って泣き崩れていた。
 そして小鳥は、こんな時になってやっと思いつく。
 そうか、あの部屋で二人は長く愛しあってきたんだと。
 そしてあの甘い香りは、彼女の置きみやげってわけ?

 きっとこれからも。大好きなお兄ちゃんに一生彼女という女性は刻まれたままで、時々こうやって顔を出して翔と小鳥の間を堂々と通っていくのだろうか。

 八年も、八年も……。小鳥の片想いの年月と同じぐらい長く、二人は愛しあってきたのだから……。

 長く恋人同士だったのに別れてしまって、なのに彼女はあまり良い結婚ができなかったようだ。
 翔兄と結婚すれば、いまからでも幸せになれるの? 翔兄だって、八年も愛したんだもん。まだ少しはやり直せる気持ちだってあるかもしれない。この部屋に彼女の匂いが残っているように?

「小鳥……。どうしたんだ」

 小さな薬箱を持ってきた翔兄が、小鳥を見下ろしている。

 彼がそっとソファーに跪いた。そして頬が赤くなっている小鳥に触れ、覗き込んでいる。
 その指先が濡れた。そう小鳥は今になって涙を蕩々と流していた。



< 223 / 382 >

この作品をシェア

pagetop