愛シテアゲル


 大人だから? なにもかもわかった眼で、小さな女の子がいうことをわかりきったようにただ聞き流しているだけ?

「お、お兄ちゃんだって。瞳子さんが幸せじゃないと知って、ほんとうはどうなの?」
「どうって?」

 彼の眼が急に冷たく変貌した。

「だって、瞳子さんはまだお兄ちゃんのことが好きみたいだし。瀬戸田って後輩の人だって、瞳子さんが今の結婚を間違ったのはお兄ちゃんのせいだから、なんとかしろって怒っていたわけでしょう」

「だから?」

 淡々とした静かな返答だったが、徐々に尖った声になっているのが伝わってきた。それでも小鳥は続けた。

「だから、いまなら、お兄ちゃんだって……」
「いい加減にしろよ。小鳥」

 ビクッとした。静かな声が怒っている。
 ランエボの男と対決した時に見せていた、冷たく燃える目が小鳥にも向けられていた。

「今夜、エンゼルの中で俺とオマエ、あんなにひとつになっていたあれはなんだったんだ。じゃあ、小鳥のすぐ隣にいたこの俺は偽りだったというのか」

「ち、違うけど。でも、でも、」

 そして小鳥はついに、子供っぽく泣き出してしまう。そして思わず口走っていた。

「だって……。この部屋に、まだ彼女の匂いが残っているじゃない。お兄ちゃんは気がついていないの? 慣れちゃってもう当たり前になっているの?」

 図星だったのか、翔の目線がすぐ、ベッドルームへと向いた。明らかに、あの部屋だけにある甘い匂い。

「まさか。あの匂いを気にして怒っているのか?」
「匂いはさっきここに来て急に気になっただけ!」

 なのに、翔兄がおかしそうに笑っている。



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