愛シテアゲル
「お兄ちゃん、こんばんは」
ドアの外で小さく呟くと、そのドアが開いた。
「なんだよ。鍵で開けたなら入ればいいのに」
彼がちょっと残念そうな顔で小鳥を見下ろしていた。その目と合ってしまい、小鳥は気恥ずかしくなり目を逸らしてしまう。
「やっぱり、いきなりは失礼かなーっと思って」
「なんだよ、そんなこと大丈夫だから。入れよ」
その手が小鳥の肩を優しく包んで、玄関中へと静かに入れてくれた。男らしいけど、柔らかに誘ってくれるその手先だけで、小鳥はもう緊張してしまった。
しかも。ついに翔兄の部屋に来ちゃった! やっぱり玄関に入っただけで『匂い』が違う! だけど弟たちの部屋の匂いとも違う。父ちゃんとも違う。さらに玄関の廊下はピカピカに光っていて、埃もない。綺麗。几帳面そうな翔兄らしい清潔感が空気にも漂っていた。なのに、やっぱり『男の匂い』が微か混じっている。小鳥が知らない空気だ。
「わりと早かったな。日付が変わるまで大騒ぎをして、二次会三次会と長引くかと覚悟していたんだけど」
先に玄関をあがった翔兄が、ほっとした顔を見せた。
「そうだね。花梨ちゃんが幹事をしてくれたからかな。テキパキしているもん、いつも助かる」
まだ遊びたいとごねる男子もいなかったし、最後の支払いもスムーズに終わったなあとふと思った。
「ふうん、花梨ちゃんが幹事だったのか。ならば、花梨ちゃんとスミレちゃんが気遣ってくれたのかな。長引くと責任感が強い小鳥がいつまでも帰らないからと――。誕生日ぐらい自分の時間を過ごせと言いそうだな、あの彼女達は」
なにもかも見通したようにして、翔兄が肩越しで微笑む。それを聞いて、小鳥も気がついた。
そう言えば、早々にデザートが食べたいと言いだしたのはスミレだったし、花梨も、一緒に幹事をしていた勝部先輩も、今日はテキパキと皆を駐車場へと追い出していた。