愛シテアゲル
「え、あれは私が落ちちゃったんだよ」
「痛がる小鳥が逃げ腰なのを、俺が無理追いして落としたんだろ」
「え。私が痛がって隅まで逃げちゃって落ちちゃったんでしょ」
ふたりで顔を見合わせた。
「小鳥は気にしていたけれど、アレは俺が」
「気にしているけど、私だよ、私が勝手に……」
そこで目が合い、二人揃ってついに笑ってしまう。
「知らなかった。お兄ちゃんも気にしていただなんて」
「気にするよ。お兄ちゃんであるはずの俺が、女の子を落としてしまうだなんて。だから小鳥ももう気にするなよ」
本当に、知らなかった。幼い自分が怖くて腰がひけて勝手に落ちたと思っていたのに。
小鳥はそっと翔を見上げる。お兄ちゃんはお兄ちゃんで、大人の俺が……と常に気にしているのかも?
ううん、違う。小鳥は思い直した。
本当は小鳥から落ちた。でも彼は女の子の小鳥が気にしないよう『俺が悪かった。小鳥は悪くない。だからもう気にしない』と、小鳥の中で嫌な思い出にならないよう自分が悪者になろうとしている。
そういう大人の気遣いに違いないと――。
「お兄ちゃん、大好き。ほんとうに好き。大好き」
気持ちが軽くなって、嬉しくて、小鳥から彼の胸に抱きついた。