愛シテアゲル
目の前に、小鳥が好きなレモンスカッシュを注いだグラスを置いてくれた。
すっかり落ち着いた小鳥は、翔に案内されたテーブルの椅子に座っていた。
そんなに広くはないリビングにはテレビとソファーとローテーブルと、そして小さなダイニングテーブル。対面式のキッチンがあった。
その隣のドアが開いていて、そこには男らしくモノトーンでまとめられたベッドルームが見えて、小鳥はまた意識して見ないように目線を逸らす。
「そうだったのか。花梨ちゃん、本命の彼と上手くいかなくて、遠距離恋愛中の男とね……」
翔兄が神妙な面持ちになり、隣の椅子を引いてそこに座った。
「でもまだ確かじゃないから、彼女から言い出すまで、余計なこと言っちゃいけないと思って」
レモンスカッシュのグラスを手にして、小鳥はひとくち飲み込んだ。
「そうだな。そう見えても、あまり言わない方が良いかもな。花梨ちゃんだってもしそうなら、何が悪くて、そして自分も傷つけていることはわかっていると思うな。ただ、どうしようもないだけで……」
「どうしようもないって?」
小鳥の隣の椅子に座った翔兄は、そこに無造作に置かれたカモメの合い鍵をいじりながら、言いかねる様子を見せている。言って良いのか悪いのか、迷っているように……。
「あのな、そういう時期があるんだと思う。想いとはうらはらに、人肌寂しいというのかな。遠距離恋愛で潰れていく仲間を俺もだいぶ見てきたから。想いがあっても、若さゆえの、そういう寂しさっていうのかな。たぶん、その彼も花梨ちゃんもそういう意味で上手く噛み合ってしまったんだと思う。遠距離中の彼もカノジョの元に帰るつもりなんだろうし、花梨ちゃんもただその時だけの男でしかないとかね」
「ヤダ、そんなの! 地元の彼女も可哀想だし、花梨ちゃんだって虚しくなるだけじゃん!」
すかさず叫んだ小鳥を見て、翔は致し方ない笑みを見せた。でも、大きな手が小鳥の頬へと触れ、頬に沿う黒髪をそっと撫でた。