愛シテアゲル
時間はもう夜明け前。それでも冬の朝の空はまだまだ暗い。星がきらめく港近いこの町から、小鳥は空港近い自宅へと向かう。
綺麗に直ったMR2をひさしぶりに運転する。まだ彼の匂いがこの車に残っていた。
そして身体にも、つきんとする甘い痛みがあちこちに残っている。
彼がまだ自分の中にいるよう、自分の肌に触れたままそこにいるような。
なにもかも、世界のなにもかもが自分を愛してくれたかのような気持ちになってしまう。
だけれど『龍』の看板が見えたとき。小鳥のその気持ちは胸の奥へと逃げ隠れた。
MR2が店先に入る。そこで小鳥は『やっぱり』と息をのんだ。
事務所に灯りがついている。
そして。社長デスクに、夜中だというのに、英児父が座っている。
なにもせずに、ジッと店先へ馳せている鋭い視線。
暗い店先、暗い車内。それでもハンドルを握っている小鳥は、その父の視線と確かに目が合ったと感じた。
それはとても痛いものだった。