愛シテアゲル


「大阪の商社マンと聞いて、やっとあいつの腹がわかったわ」

 え。どういうこと? 商社マンと知っただけで、なにもかも見通した英児父の眼が燃えている。それは男への怒りなのか、おめでたい娘への怒りなのかよくわからないけれど、急に怒っている。

「ほんとうのエリート商社マンはな。自分の首を絞めるような選択はしねえんだよ。あんな犯罪まがいな行動を選択した時点で、もう終わっているんだよ。都会の仕事ができる会社員だったなら、地方の走り屋にムキになっている暇なんかねえはずなんだよ」

 ではあの瀬戸田という男はどうしてあんな暴挙に? 小鳥が尋ねることをわかっていたように、英児父が続ける。

「あの瀬戸田という男は、それだけ憂さを晴らす場所を探していたってことだ。瞳子さんも翔も、なにもかもアイツの都合の良いこじつけにされているだけだ。おそらくなにもかも上手くいっていなかったんだろう。転属してきたのも経歴を積む修行を兼ねた転属ではなさそうだ。おそらく『意にそぐわない出向』か『左遷』だろう。あの気性だから仕事関係がうまく行かなかったんじゃないか。瞳子さんのことだって急に思い出したんだろ。彼女なら優秀な自分のことを今なら認めてくれるかもしれない。なんだその自信のない選択は。エリートなら女の方から寄ってくるわ。それを学生時代の遠い想い出の女にしか自信がねえってことはよ、つまり、あの男は瞳子さんのこともバカにしてるんだよ。その見下して近づいた瞳子さんに逆にバカにされたんだろ。その腹いせが今度は翔に向いたような気がする」



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