愛シテアゲル


 そんな父がひと息ついて、小鳥の頬を指さした。

「翔は、その赤く腫れた頬になにもしてくれなかったのか」
「湿布を貼ろうとしてくれたけれど、私がしなくていいと断ったの」

 全てを見透かしたようにして、英児父が微笑んでいる。でも目がちょっと哀しそうにも見えた。
 そんな父のなんとも言えない顔を見て、なにもかも知られていると悟った。

「父ちゃん。かっこよかったよ。父ちゃんのスカイラインがランエボと並んで走っている姿、すんごいドキドキした。やっぱり父ちゃんが一番だよ」

 英児父が唖然とした顔で静止した。

「ば、ばっかやろう。なに言い出すんだ」
「本当だよ。父ちゃん、かっこいい男だよ」
「お、おめえ。なんだかズルイ娘だなあっ」
「え。なんで、ズルイの?」

 心からの気持ちを言ったのに。今度は急にぷりぷりと英児父がむくれている。

「うっせい。もういい。琴子も心配して待っている。殴られたことも言ってねえからよ、女同士でなんとかしろ」

「はい。ご心配かけました。ごめんなさい」

 最後にきちんと頭を下げて謝ったけれど、英児父に背を向けられてしまう。

 社長デスクでなにをしていたわけでもなく、なにかを始める訳でもなく。ただ小鳥に背を向け、腕を組んでじっとしているだけだった。

 そんな父を思いやるように、小鳥は事務所のドアを開け、二階自宅へと向かう。

 

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