愛シテアゲル


「なのに。英児さんが『それだけはやめてくれ』なんて言って行かせてくれないの。聖児と玲児まで『危ないから行くな。お母さんがいるだけで父ちゃんが集中できなくなるから』と言って止めるのよ」

 英児父が龍星轟を出発するその時、この自宅でも一悶着あったということになる。
 飛び出そうと突っ走る琴子母を、父と弟たち『男三人』で必死に止めたようだった。

 小鳥は絶句していた。そして英児父が言ったとおり!? 
 『琴子は無茶をする』というのは本当だった?
 もしかして、それを元ヤンの父ちゃんが上手く受け止めて抑えていた??

 初めて知った母の熱い姿だった気がする。

「我慢して我慢して、やっとお父さんから『なにもかも終わったから大丈夫。小鳥は後から帰ってくる。翔と一緒だから安心しろ』とだけ連絡があって。なのに小鳥ちゃんは帰ってこないし……」

「どうして帰ってこないのか、父ちゃんからなんて聞いているの」

 小鳥の問いに、琴子母がなにかを感じたのか怪訝そうに小鳥を見上げた。

 どうして娘は父親と一緒に帰宅しなかったのか。お父さんはそれを知っているはずなのに、妻の自分には詳しい報告はしてくれなかった。それはなぜ?

 母らしく静かに考えている目。小鳥はそっと俯いてしまった。

「……。これ、どうしたの。腫れているじゃない」

 案ずる気持ちが落ち着いたのか、母は小鳥の顔を見て頬に気がついた。



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