愛シテアゲル


 『少しだけでも眠っておきなさい。無理しなくて良いのよ。今日は学校もアルバイトも休みなさい』と、琴子母は言ってくれたけれど、家にいるといろいろ考えてしまう癖があり、じっとしていられない性分。

 そうか。私が忙しくしているのは、本当はすぐに考え込んでしまうタイプだから? なんて小鳥はそう思ったりもした。

 いつもの朝、いつものリビング、いつもの服装。昨夜の熱いひととき、裸になって男の人と抱き合っていたなんて……。自分のことではないみたいだった。

 寝坊をしたせいか、弟たちはもう学校へと出かけていた。
 母も父ももう何も触れてこない。

 1時限目開始にギリギリ間に合うか間に合わないか。
 だけれど出勤ラッシュの時間帯も過ぎる頃だから、もしかすると今の時間の方がすいすい運転できるかも。

 そんなことを考えながら、通学用のトートバッグを手に小鳥は自宅から龍星轟店舗へと階段を駆け下りる。

 いつもなら事務所のドアを開けて、武智専務に朝の挨拶をして……。そして『お兄ちゃん』を探す。朝早く出勤してくるお兄ちゃんがその日のスケジュールを確認している背中を見つけて……。

 うーん、やっぱり今日はドアを開けにくい!

 英児父がどんな顔をしているのか。人の様子に敏感な武ちゃんが、英児父や小鳥を見てなにか見抜いてしまわないか。そう思うと開けられない。

 翔もどうしているのだろう? バス? タクシー? 車大好き運転命なお兄ちゃんが徒歩で来るだなんて想像できない。自転車? 持っていないはず。どうやって出勤するの?



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