愛シテアゲル


 だけれど小鳥には英児父がどうして呆れているのかわかっていた。瀬戸田という男がどうして翔を狙ったのか。それをわからない小鳥のことを父は『まだ子供だ』と言った。

 それは若い部下の翔にも同じように父がつきつける。

「まったくよう。国大卒で頭の回転が速くても、やっぱ人間関係ってもんは学歴なんて関係ねえってよくわかったわ」

「あの、どうしてですか」

「おまえも小鳥と一緒でまだ『おめでたい純な男』だな。これからはよ、『人の腹』ってもんを読める男になってくれなくちゃ困るわ」

 うわー。父ちゃん、きつう……。小鳥は目を覆った。

 本当の子供である小鳥なら言われても『ムカツクけど、父ちゃんの言うとおりだよっ』で終われるが、もう三十歳になった翔兄にとっては痛い指摘と感じるのではないだろうか。

 しかし、そこは『上司』なのかもしれない。そして『男の大先輩』だからこそ、ここできつく言わなくてはならないのかもしれない。

 父が翔にあからさまに駄目だしをしたせいか、二人の会話が途切れてしまう。

 父に何を言われても、いつも落ち着いている翔兄だからきつい指摘を受けても大丈夫だと思う。
 けれどドアの向こうが見えない小鳥は、たとえ翔兄でも歯を食いしばっているのではないかとハラハラしている。



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