愛シテアゲル
「今日の昼休みに、車を飛ばして買っておいたんだ。もう龍星轟の冷蔵庫にしまっておくのに、社長に見つからないかひやひやしたんだからな」
「えー、お兄ちゃんってこんなこと考えてくれていたの? こういうことって嫌いなのかと思っていた!」
照れくさくてちょっとからかうように言っただけなのに、そこで翔は黙ってしまった。黙ったが、彼はそのまま静かにケーキの上に、細長く赤いろうそくを立てた。
「そうだな。俺、自分からこんなことはしたことがないな。彼女に言われてやっと気がつくというか。誕生日なんてなくても、普段の日が良ければそれでいいじゃないかと思っていた。たぶん……女には冷たい男……」
恋人と別れてしまった昔の自分を思い出してしまったようで、小鳥は『しまった』と顔をしかめた。
「お兄ちゃん。私もそう思うよ。誕生日だからなにかをしなくちゃとか、別にいいよ。今日も父ちゃんに言われたんだ。もう大人になったから誕生日の祝いはしない。これからはその日は自分が一緒にいたいと思った人間と過ごしたり、自分の為の時間だと思って歳を重ねていけって」
「社長が、そんなことを」
隣にいる大好きな彼。やっと想いが通じた彼の大きな手を、小鳥から手にとって握りしめた。
「今夜だって、こうしてお兄ちゃんと二人きりでいられるなんて嘘みたい。私、これだけでドキドキして、でも嬉しい。お兄ちゃんが私になにかをする日じゃないよ。私がお兄ちゃんと一緒にいたいの。だからお兄ちゃんがいるところに、私が行くね。一緒にいてって私から言う」
小鳥を見つめたまま、固まっているお兄ちゃんの顔がある。思わぬことを言われたと、驚いているような顔の。
「えっと、私の独りよがりすぎるかな」
人の気持ちも考えないで押しかけていくように見えたのかと、不安になった。