愛シテアゲル


 当然、翔も驚いているに違いない。

「あ、あの。社長は彼女と、なにを……?」

「可愛い女の子は、おっちゃんじゃないと話してくれんこともあるんよ。元カレに言いたくないこともあるだろうよ。まあ、そんなところ」

 また二人の間に妙な沈黙――。

 俺ぐらいの親父ではないと、若い女性が話せないこと。それを聞いてやっと小鳥も父の意図を汲み取れた。

 きっとあれだ。瀬戸田につきまとわれていたかどうか。それを知りたいのだと。そして瀬戸田という男の言い訳が、実際は翔に向かっていた訳ではない。それも確認しておきたいのだろうと。

 翔のせいではない。翔のせいで事件が起きたようにされている。それを確かめるのだと――。

「そう構えるなよ。むこうも弁護士をたててくると思うんだわ。その時にこっちも足下固めておかなくちゃならねえんだよ」

「そういうことならば。わかりました。互いに連絡先を変えているので、友人に頼んでみます」

「頼むわ」

 そこで話が終わったようだった。

「翔。おまえ、三十になったんだよな」
「はい、今年で三十一になります」

 またなにかを英児父が話そうとしていて、小鳥の足はまだドアから去ることができない。


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