愛シテアゲル


 娘の自分が出て行く隙もない。小鳥はそろそろドアから離れようと背を向けた。

「車、取りに来なかったんだな」

 また父の気になる一言に、やっと歩き出した小鳥の足が止まる。

 やっぱり父ちゃん、我慢できなくて探っているじゃん!

 小鳥の心臓が今度こそドキドキ破裂しそうだった。

「スープラより大事なもんでもあったのかね」

 翔がどう答えるのか、また父親はどう受け取るのか。また言い合うのか。
 もう小鳥は通路の壁に寄りかかって、なんとか崩れそうな身体を支えている。

「そうですね。車より大事なものだってありますよ。俺にも」

 車より大事なもの――。それって私のこと?
 車しか見えていなくて恋人と別れた人だったのに。
 いまだって車が大好きで、小鳥はそんな男性でも全然構わないと思っていた。

 でも、やっぱり嬉しい!




< 272 / 382 >

この作品をシェア

pagetop