愛シテアゲル


 スタッフルームに戻って、やっと涙が出てくる。

 正しいけれど、軽率だった。それは難しい言葉のようで、小鳥には良くわかる。初めて自分が目指しているもの責任という重みがずっしりとのしかかってくる。

 真田珈琲本店を後にして、小鳥はMR2に乗り込んだ。急に時間が空いて、でも真っ直ぐ家に帰ることもできず――。

 昨夜、ランエボに遭遇した勝浦の海岸沿いを走るのも嫌になり、ダム湖はなおさら。そして遠く岬や、しまなみ海道まで走る気もおこらない。

 どこに行けばいいのだろう。
 いつのまにか、小鳥はそこに辿り着いていた。

 夕なずむ港町が見える彼のマンション。
 カモメのキーホルダーを手にして、まだ彼が帰ってきていない部屋の鍵を開けていた。


< 280 / 382 >

この作品をシェア

pagetop