愛シテアゲル
帰ってきた彼が作ろうとしたのは『たらこスパゲティ』。
その材料を買って帰ってきた。
小さなダイニングテーブルに買ってきたものが並べられる。
「お兄ちゃん、料理したりするんだ」
「簡単なものだけな。子供の頃からの好物で、実家から独立する時に母親から教わった料理のひとつなんだよ」
「手伝う!」
いつもの元気娘になった小鳥を見て、彼が嬉しそうに笑ってくれる。
「小鳥だって落ち込むことあるだろうけれど、やっぱり元気な小鳥がいいよ俺は――」
材料を両手に抱えてキッチンへ行く途中、翔にぎゅっと抱きしめられていた。小鳥はびっくりしながら彼の胸から見上げると、その拍子にもう唇を重ねられていた。
「翔、に……」
かるく重ねられただけの唇、でも大きな手が強く小鳥の頭を引き寄せる。
『もっと俺とくっついて』そういいたそうな力強さ。
そんな翔の舌先が小鳥の唇を静かに愛撫して、『口を開けて』と求めている……。
いままでキスに慣れていない小鳥をリードするように、彼から唇をこじ開けて入ってきたのに……。
そんな求愛に負けて、小鳥から口を小さく開けて、彼を迎える。
小鳥から招き入れたんだから、もう遠慮はしない。そんな彼のくちづけ……。
「んっ……」
今日、彼の柔らかい唇は小鳥の口先をちゅっちゅと幾度も吸って、いつまでも離してくれない。
なんだか、いままでと違う……。彼のキス。
しつこいくらいの熱いキスがそのうちに耳元に移った。
「翔にいっ」
「今夜はこれで……、やめておく」
熱いため息混じりの声が耳元をくすぐる。
やっと彼が小鳥を腕から放した。小鳥の腕にある材料を手に取るとキッチンへ行ってしまう。