愛シテアゲル


 身体を重ねたばかり故の妙なぎこちなさはあるけれど、それ以外は、これまでいつも一緒にいたお兄ちゃんと女の子という雰囲気のまま、ふたりで楽しく料理を仕上げた。

 小さなテーブルに座って『いただきます』と元気よく頬張る。
 簡単な男の手料理だけれど、とても美味しくて小鳥も笑顔になる。

「おいしー! お兄ちゃんのおうちのたらこスパは、クリームを入れるんだね」

「うん。俺の家の味ってやつかな。龍星轟の日曜日の昼飯はオカミさんの手料理が名物だけれど、滝田家のバター味のたらこスパも俺は好きだけれどな」

「クリームも美味しいよ」

 元気よく食べる小鳥を目の前に、翔も静かに微笑んで食べている。

「良かった。小鳥が元気になって……。まあ、その、バイトに行けない間はやりたいことができなくて心許ないかもしれないけれど、ちょうど試験もあるんだろう。腰を据えて勉強でもしろって意味もあったと思うな」

「そうかも。自分のことでも勉強になったよ。私、急ぎすぎていたのかもね。早く夢を叶えたくて。自分のなにがいけないのかなんて、考えたことないし、考えたくないから動き回っていたのかも」

「小鳥が活発でなければ、小鳥ではない気もするけれど。そうだな。少し休んだらいい。のんびりしてみたらどうだ。俺の部屋、いつ来ても良いし、好きなだけ居ても良いからな」

「ほんとに……?」

「もちろん。昼間、俺が仕事で留守にしている時も、試験勉強で使ってくれてもいいからな」

「賢い統計の出し方とか、フランス語とか教えてくれるの」

「ああ。いままでは龍星轟で聞かれていたけれど、これからはここでゆっくり……」

 教えてあげられる。と言ってくれるのかと思ったら、そこで何故か翔が黙りこくってしまう。



< 286 / 382 >

この作品をシェア

pagetop