愛シテアゲル
「昼は淑女で、夜は娼婦。楚々とした女性が夜になると女の性を晒して情熱的になるという喩えがあるだろう。小鳥の場合は『昼はやんちゃ娘、夜は淑女』――かな」
なにそれ? 食べていた手を止め、小鳥はきょとんと彼をみつめた。
「昼間は元気いっぱいの女の子のまま。なのにベッドの上では男に従って淑やかに大人しい顔をしたりして。そんな時だけしっとり女の顔で男をそそる、無意識に罪な顔する。それで『痛い痛い』でも『好き好き』なんて抱きつかれたら、男はそりゃあ堪らないって話。ベッドの方が女らしいなんて、やってくれるよな」
「ベッドの方が、女らしい? ……なんか複雑なんですけど……」
女として見える時の自分が思っていたほど酷くはなかった、むしろ、あの顔はそそられると言われ小鳥は頬が熱くなる。嬉しいような、恥ずかしいような、そんな褒められ方でいいのか困ってしまう。
「だから言っただろう。他の男にも気をつけろと。ま、俺も危ないんだけれどな」
「ゆっくりできないじゃん。お兄ちゃんの部屋でも、そんな意識しちゃうもん、私も」
「大丈夫。今日、泣いてやってきた女の子を性欲の餌食にするような馬鹿な男にはなりたくありません、俺も」
性欲の餌食なんて。またすごい喩えが出てきて小鳥は絶句した。
やっぱりお兄ちゃんは男なんだ――。
改めて『翔兄も、もうお兄ちゃんのつもりはないんだ』と、さりげなく『男の性欲とは』を教えてもらったようなかんじ。