愛シテアゲル


「冗談はこれまでな。本当に、いつ来ても良いから」

 そして最後、実家の龍星轟の事務所では涼やかな一重の眼差しが、優しく緩んだ。

「どこでも泣けなくて、俺の家に来てくれて、本当はすごく嬉しいんだ。これからもそうしてくれ」

「うん、そうする。ありがとう、翔兄」

 アルバイトを謹慎になって辛いけれど、でも、小鳥は大事なものを手に入れた気持ちになれた。



 食後は小鳥が珈琲を淹れて、またふたりでずっとお喋り。

 普段は口数少ない翔だけれど、今夜は泣いてやってきた小鳥にはお兄さんの顔でいろいろと耳を傾けてくれる。

 車のパンフレットや雑誌を見て盛り上がったり、この部屋に通うなら『今度、珈琲を淹れる道具を買いそろえるね』なんて相談をしたり。そんな話をしているうちに、小鳥は車の雑誌を束ねているソファーを片づけている時に、他の雑誌と広告チラシを見つけてしまう。

 それは部屋探しの雑誌とチラシだった。赤いペンでいくつかチェックしてあるし、雑誌にはいくつもの付箋がついている。

 お兄ちゃん? 聞こうとしたら、テーブルで小鳥が淹れた珈琲を片手にくつろいでいた翔の側にあったスマートフォンが鳴る。



< 289 / 382 >

この作品をシェア

pagetop