愛シテアゲル


「小鳥も当たられたことを耳にして、親子でまた怒っていたみたいだ」

「どうなるのかな。瀬戸田って人。お父さんとお母さんが話していたけれど、顧客さんが被害届を出す気があるかないかだって言っていたから」

「うん。被害届を出すとまたいろいろ大変だろうからな。慎重に検討しているんじゃないかな。社長を中心にして、まとめようとしているみたいだ。高橋さんには被害者代表みたいなことをお願いするとか言っていたからな」

 どうも親父さんグループで結束してしまったようだ。なんだかもう自分たちに起きた話ではないような気分にもなる。

 それは小鳥だけではなかったのか。高橋ジュニア・ランエボの黒いルーフをワックスがけしている翔の手先が止まった。

「翔兄?」

 じっと、ワックスが塗られたルーフを見つめているだけ。

「翔兄……」

 その目が哀しみで溢れていることに小鳥は気がついてしまう。

 そうだよね。本当は翔兄の知り合いから起きた事件だったよね。責任、感じているよね。どんなに父ちゃんが『おまえはなにもしていない。悪くない。気にするな。相手から悪いことを持ち込んできたんだ』と言ってくれても……。

 もし。顧客の誰かが『龍星轟に桧垣がいたせいだ』と言いだしたら、それは何も言えなくなるに違いない。



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