愛シテアゲル
まだ寒い冬の朝。部屋の窓を見ると、遠く見える海がやっと太陽の光を得てキラキラと輝きはじめる。
それでも少しずつ日の出が早くなり、春の気配。小鳥はこんな朝に生まれたのだと、父親の英児が毎年話してくれる。
これまでの誕生日で、いちばんの想い出と言えば――。
『お前の名前、本当はセナだったんだよ』
小学生の時、父親からその話を聞かされ、小鳥はとても驚いた。
『セナ』て。もしかして、あの『セナ』!? あの格好いい『セナ』!
『そう。音速の貴公子、史上最速のF1ドライバー。アイルトン=セナな』
『ど、どうして。小鳥になっちゃったの』
『なんだろうなあ。お前をだっこした瞬間に、セナじゃねえ小鳥だ――と感じたんだよなあ』
それを聞いて、子供だったけれど、小鳥はもの凄く怒った記憶がある。
『なんで、セナってつけてくれなかったのよ! 父ちゃんのバカ!』
小鳥なんて、いつまでも赤ちゃんみたいな名前じゃなくて。小鳥なんて男っぽい滝田には似合わないと男子にからかわれるような名前じゃなくて。『セナ』て名前の方が可愛いじゃん。しかも、あの『アイルトン=セナ』から名付けてくれたって、如何にも車屋の娘でかっこよかったじゃん!!
誕生日なのに家を飛び出して、近くの公園に籠城したことがある。だけど、母は働きに出ていたし、父は店を離れられるはずもなく迎えに来てくれなかった。最初に見つけてくれたのは弟の聖児。だけど彼も付き合いきれなくて家に帰ってしまった。