愛シテアゲル
3.怖いのは俺もいっしょだよ。(1)
キスもされて、男の手が柔らかい肌を求めて触れた。
そんなムードができあがっているのだから、小鳥だって覚悟は出来ている。
『おいで』とベッドルームに連れてこられて、いまさら『恥ずかしいから』なんて言えるはずもない。
もう彼はすっかりその気だった。小さなベッドルームには、既に仄かな灯りがつけられていたから、小鳥と過ごすつもりで整えていてくれたことがわかる。
それになんだろう。この部屋の匂いに、小鳥はうっとりしてしまう。いい匂い。男の匂いも微かにあるけど、男の人の家に来たと思っていた玄関とは違う甘い匂いがする。
それだけでうっとりしていたら、もう翔の胸に深く抱きしめられ、真上から温かい唇を重ねられていた。
今度は強く翔兄が唇を割って入ってきた。小鳥もそっと合わせる。彼に応えることが、今はこうして合わせることしかできない。
もうキスだけで頬が熱い……。こんな時……。おかしいけれど、小鳥は父親の英児と琴子母の姿を思い出していた。
小さい時、朝の洗面所でこっそりふたりがこうして大人のキスをしていたなあと。子供の前で英児父が母が好きなあまり抱きついたり、軽くキスをしたりする愛情表現と、あれは違うと幼心に感じていた。
あそこだけ湿り気を帯びた熱情を感じていた。大人だけの秘め事。そんなキスをして愛しあっていた。小鳥は今、自分も同じものを大好きな人と交わしている。そう思うと、胸の奥からもぎゅっと熱いものがこみ上げてくる。