愛シテアゲル


 しばらく、英児父が黙っていた。そして、小鳥ではなく父は翔を見上げていた。

「翔。思った通り、おまえのせいじゃなかったぞ」

 それでも翔は愕然とした顔をしていた。それは『無実のまま巻き込まれたショック』? それとも『前カノが、あの男と関係していたショック』? 小鳥には解らないが、どちらにしても翔にとっては思わぬことなのだろう。

「あの男。やっぱり瞳子さんにちょっかいだしたらしい。瞳子さんも心弱っていたから、ちょっと隙を見せてしまったようだな」

「隙、ですか……それは……」

 翔の恐れた口調。小鳥の心も落ち着かなくなる。大人の考えなら、心弱っている時に優しく入り込んできた男になにもかも許してしまったことが浮かんでしまう。

 つまり、それは『夫への裏切り』だった。
 八年間付き合い別れた恋人が、自分と別れて仕方なく結婚をして、思い通りの結婚生活ができなくて、その果てに以前振った男の誘惑に負けて身体を許してしまう。それは恋人だった男にとってどんな思いなのだろう。

 その瞬間、大好きな彼の心が前の恋人に奪われているようで、小鳥も辛い。そんな場所に、英児父はどうしてか小鳥を呼びつけた。何故?



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