愛シテアゲル


「そう……でしたか……」

「しつこい瀬戸田に、瞳子さんは『どうせ夫以外の男とどうにかなるなら、翔のところに行く。翔はまだ一人だからきっと受け入れてくれる』と何度も言ったらしい。あの男は、瞳子さんに賭けて、二度もおまえという男に負けたんだ。その逆恨みがおまえに向いたようだな。元恋人同士、別れたくせに人妻になった女を略奪する悪い男ってわけだ、おまえは」

 なんという『本人不在という場での押し付けか』と、小鳥は絶句した。瞳子さんは逃げる場所に翔を使い、瀬戸田は恨みの矛先を侮辱した女ではなく、彼女をかばうだろう男へと向けた。

 ついに。翔の拳が震えているのを小鳥は見てしまう。

「俺はなにも……」

 いつもの静かな声が震えている。震える拳は、激昂を抑えるため。

「俺は、瞳子をかばってもいないし、やり直そうとも思っていなかったのにですか……」
「そうだ」

「彼女と瀬戸田のいざこざなのに、何年も会っていなかった俺が最後に恨まれるんですか……」
「そうみたいだな」

「俺だけが痛い目に遭うならまだいい。なのに俺がいるだけで、ここの顧客を巻き込んだ。お嬢さんを酷い目に遭わせた。社長、どうしてですか。どうしてこんなことになってしまったのですか。俺は、どうすれば良かったんですか」

 そして、小鳥はさらに言葉を失う。茶々をいれたがる武智専務も矢野じいも、静かに黙って翔を案じた眼差しでみているだけ。



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