愛シテアゲル
英児父だけが、毅然とした目つきで、はっきりと翔に告げる。
「しっかりしろ、翔。おめえは、胸張っていろ。それが『仕返し』だ。あの腐れ野郎は、生真面目なおまえが気に病むやり方を選んだんだと思う。あの野郎の悪行が終わったのに、おまえがそんなに気に病んだらあの野郎の思うツボになってしまう。狙った女を奪った仕返しなのか、おまえが商社でなくとも順調に思い通りに生きている姿を妬んだのかわからねえ。だからこそ、アイツの思い通りになるな。胸を張れ。すぐに効く薬ではないけどよ、後で絶対に効いてくるからよ。じっと堪えろ。おまえは悪くねえ」
英児父の言葉に、翔が眼を伏せ唇を噛みしめ堪えている。そんな彼を見て、小鳥まで感極まってくる。
でもとても酷い話。小鳥が男なら、いますぐすっ飛んでいって一発張り倒してやるのに――と思うほど。
それでも、英児父の言うとおりなのかもしれない。
何も悪くない。それならこちらの拳を痛める必要もない。悔しさは同等の方法で返せばいいわけでもない。瀬戸田という男が暴挙をふるったなら、こちらは正々堂々とアイツの目の前で『なんともない』と胸を張っていればいい。
それは、最初の内は悔しさを噛みしめ涙を呑むだろうが、時間が経てば、必ず双方にそれなりの結果が出る。暴挙を振るった男の未来と、胸を張って勤しむ男の未来。その差は歴然となるだろう。