愛シテアゲル
小鳥に耐えるなんて、いままでにはないものだった。だが小鳥はひとり頷く。
「わかった。父ちゃん。私も胸張って、翔兄と耐える。アイツが龍星轟にやってきたら、本気でぶん殴ってやろうと思ってたけど、私、胸張って仕返しする。痛くもかゆくもなかった顔をしてやるっ」
英児父が『はあ?』と顔をしかめた。
「こんのバカ娘! おめえに言ったんじゃねえよ、翔に言ったんだよ。しかも、ぶん殴るつもりだっただとー!? いい加減にしろっ。おめえは胸を張る前に、その無駄な勢いひっこめろ!」
立ち上がった英児父がスパンと頭を叩いた。小鳥は『痛ーいっ』と唸る。
「もう~。なんなのよ、父ちゃんったら! 気持ちだけで、本当に殴ったりしないったら」
「いやー、わからんぞ。おまえに限ってはわからんぞ。おまえ、カッとなったら周りが見えなくなって飛び出すじゃねえか。ほれ、その口元の痣はどうした、どこでどうしたら女の子の顔にそんなもんができるんだ」
「うるさいな~、もう。わかっているくせに、そういう言い方、腹立つ!」
『あんだと、このバカ娘』、『父ちゃんなんか、大嫌い』なんて、久しぶりにお互いムキになって言い合ってしまう。
そのうちに、小鳥の隣からクスクスとした笑い声が聞こえてきた。
哀しい目で下を見ていた彼が、翔が笑っている。
「そうですね。俺も、小鳥と一緒に胸を張って、そう、もう忘れます」
いつもの八重歯の微笑みを取り戻してくれた。小鳥は嬉しくなって、抱きつきたくなったが、さすがに堪えた。