愛シテアゲル


 父親が小鳥の顔を、座った姿勢から覗き込んでいる。

「なかよしの兄貴がよ、別れた恋人に会いに行くってよ。気になるかもしれねえが、子供の出る幕じゃねえ。邪魔すんなよ」

 なんだか、ものすごく腹が立った。仲の良い兄貴といって、父親の眼が『おまえが惚れた男』と試している。惚れた男だから気になるかもしれないが、おまえはまだ子供だから首を突っ込むなと、おまえなんかまだ男と対等になれる女じゃねえ、まだガキなんだよと煽っている。そして、邪魔するなと――心配もしている?

 娘が部下の男を幼い時から慕ってきたことを知っていて、惚れている男と一晩一緒にいたことがどういうことか察していて、でもそれを認めたくないから、認めるわけにいかないから、でも男と女になったおまえと翔の問題だと投げかけている。

 娘を試す父親の眼が徐々に凄味を増している。でも小鳥も怯まない。父親を睨み返す。
 そんな父と娘を、武智専務も矢野じいも、ハラハラした様子で見守っているだけ。



 
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