愛シテアゲル
父娘無言の張り詰めた空気。事務所が静まりかえっている。そんな父に、小鳥ははっきりと言い切る。
「子供だけれど、それでもお兄ちゃんがここに帰ってくるまで、ちゃんと待っていられる。お兄ちゃんが決めること、私が決めることじゃないよ。だから、どう決めるのか待っていられる」
本当はひとことで済む。『大好きな彼を信じる』とだけ父親に言えばいいこと。でも向こうも『惚れた男が前の女に会いに行くけど、おまえ、信じて待っていられるか』と釘を刺せばいいのに、父親も遠回しに来たから、娘である小鳥も同じよう遠回しに返しただけ。
「もういいかな。父ちゃん。矢野じいの手伝いをしていた途中なんだけれど」
「ああ、もういいぞ」
なにか諦めたようなため息を落とし、英児父は事務作業に戻ってしまう。
小鳥も『まったく。面倒くさいなあ』と呆れながら、ダイレクトメールの手伝いに戻った。
母親の勤め先である三好堂印刷から出来上がった龍星轟の広告を封筒に入れていると、目の前で矢野じいがじいっと小鳥を見ている。
「なに。矢野じい」
「小鳥。おまえったら、後ろ姿だけじゃなくて、女としても琴子にそっくりになったんだなあっと思ってよう」
「え、どういうこと?」