愛シテアゲル


 いつも元ヤンの親父さんにそっくりと言われる。お母さんに似ていると言われるのが憧れだった。でも近頃、矢野じいが『琴子そっくりの体つきになりやがって。後ろ姿そっくりだわ』と言うように……。それはそれで嬉しいけれど、また『母に似ている』と。

「あのよ。琴子もよ、英児がいろいろあった時によ。『彼は過去を通って、いま私がいるところに帰ってくるから、待っている』とか言ってよ。英児と前の女を……」

 英児父と元恋人と、琴子母。それは先日、英児父が翔に『俺も三十の頃に女といろいろあって、数年後、付き合い始めた琴子を傷つけた』と言っていた話のことだろうかと小鳥は思い出す。

「ちょっと、矢野じい……」

 隣デスクにいる武ちゃんが、困った顔で矢野じいの腕を引っ張った。

「タキさんが、睨んでる」

 社長デスクから、本当に英児父が矢野じいを睨んでいた。矢野じいが『しまった』と肩をすぼめたが遅かった。

「ジジイ、ツラ貸せや」

 うわー。元ヤンの親父さんに豹変している。
 小鳥と武智専務は揃って震え上がったが、元祖ヤンキーと言われている矢野じいも負けていなかった。

「なんでえ。クソガキ。おまえだって、若けえ時の話、娘に胸張って話せねえのかよ。おう、てめえこそ、こっちこいや」

「おう、クソ親父。こっちこいや」

 ガンとガンがぶつかり合った。そのガンとばしでお互いの眼を捕らえたまま、英児父と矢野じいが事務所の外に出て行った。




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