愛シテアゲル


 MR2のキーを握りしめ、心躍らせながらガレージに入った。

「小鳥」

 彼が追いかけてきたような息づかいで、後ろにいた。

「どうしたの。あ、私、今夜は走りに行こうと思っているんだ。翔兄もどう?」

 男とか女とか、新しい関係でしばらく『純粋なダブルドライブ』はご無沙汰だった。彼の部屋で二人きりも素敵だけれど、いままでそうしてきた『一緒に走る』もいい。

 遠い岬でも、しまなみ海道の高速でも、夜景が綺麗な三坂峠でも。今日は彼と車を並べて遠くに行きたい。ついたところで、どちらかの車で並んで座ってずっとお喋りしたい。夜食を買っていこう。大好きなおにぎりとか、コンビニのチーズケーキとか。ドーナツもいいな。そんな『いままでの夜』も大好き。それがしたい。

 なのに目の前で彼が申し訳なさそうに目を逸らした。

「今から瞳子に会えることになったんだ」
「そ、そうなんだ」

 やはり心穏やかではなくなる。それでも彼は帰ってくると解っている。ただ、そこで瞳子さんが本気で翔兄に『いまでも貴方が好き、愛している』と言い出すのなら、翔が断ると信じていても、どうやって彼女に諦めてもらうのだろうと――。

 あの日、小鳥を睨んだ彼女の妬ましい視線が忘れられない……。



< 314 / 382 >

この作品をシェア

pagetop