愛シテアゲル
彼女はいまでもきっと『いまでも翔はひとりだから、きっと受け入れてくれる』と思っている。瀬戸田という男にそう言い放って、それを頼りにして彼女はあの日、翔の部屋に飛び込んできた。
好きな男にその気がなくとも、他の女性から強烈な気持ちをぶつけられること。ただそれだけのことが嫌な気持ちにさせる。
――これが、女の気持ち。小鳥は初めて噛みしめている。彼を好きなだけで、彼が自分の方を愛してくれているとわかっていても。自分にも女としての嫌な気持ちがあるんだと。
琴子母も、英児父の元恋人にこんな気持ち。感じたのかな。どうしたのかな。
よく知っている母の微笑みを思い浮かべる。
小鳥は噛みしめ、その嫌な味がするものを飲み込んだ。
「いいよ。私、ひとりで行ってくる。翔兄、いってらっしゃい。でも……明日、マンションに行ってもいい?」
翔は黙っている。背が高い彼が上からじっと小鳥を静かに見下ろしている。またなんとも言えない眼差しを見せている。