愛シテアゲル
「長い春、質の悪い長い春。そうだったんだなと――」
「自分の恋をそんなふうに責めるの。なんか寂しいよ」
自分より前に愛された女性がいること、意味もなく心が痛むのはそこは『女心』。だけれど、大好きな彼が過去の自分を責めるような姿はもう見たくない。彼女と別れた時の、あの荒れた姿、哀しそうな姿はもう……。そんな彼を見てしまったから、小鳥はもっともっと彼の傍にいたいと思うようになった。その時、もう可愛らしい恋が何かに変貌したと思っている。
「小鳥のそんなところ。俺はいつのまにか虜になっていたんだろうな」
「と、虜!?」
運転席でハンドルを握る彼が、にっこりとあの八重歯の笑顔を見せてくれた。もうそれだけで……いまだって卒倒しそうにドキドキする!
「そう。きっと俺がめちゃくちゃになって社長にぶん殴られたあの岬の夜からだな。俺……あの頃から少しずつ、小鳥といる心地よさを覚えていった。そうだな。小鳥のことも、ゆっくりゆっくり俺が自覚していった。きっとそれと同じように、瞳子とのことも感覚が弱くて……ゆっくりゆっくりと誤魔化してきた。俺の自覚のなさが、質の悪いものにしていったんだ」
「翔兄……。でも……」