愛シテアゲル
「瞳子」
彼が声をかけると、ハッと連れ戻されたように彼女が顔を上げた。
「翔……」
そして彼女が翔の後ろに控えている小鳥にも気がついた。
「小鳥さん、来てくれたの」
この前、鬼気迫る眼差しで自分を睨んだ女性はもういなかった。小鳥が高校生の時に初めてみて、魅力的すぎてショックを受けたほどのあの女性の顔で迎えてくれる。
「本当だわ。お父様が教えてくださったとおり。……ここ、殴られたって……」
小鳥の唇の端に残っている痣をみつけ、彼女が泣き崩れてしまう。小鳥の方が困惑した。
「あ、あの……。父にどのように聞かされたのかわかりませんけれど。あの……私、こういうのは良くあったことで」
子供の頃から男子と取っ組み合いの喧嘩で、あちこち痣を作って帰るのは当たり前だった。高校生の時だっていろいろ首を突っ込んで擦り傷もよくあったこと。大人になってそれがちょっとグレードアップしたぐらいのことで……。
「だからって。大人の男に思いっきり……。しかもあの男が殴ろうとしていたのは、男の翔だったわけでしょう。その力をめいっぱい貴女が代わりに受けてしまったのよ。それまでの男子との小競り合いとは違うでしょう。本当の恐ろしい暴力なのよ」
そして彼女が顔を覆いながら泣き始める。