愛シテアゲル


 静かに遠くを見つめていたが、心の内はとても思い詰めていてはち切れそうになりながら、待っていてくれたんだと小鳥には伝わってきた。

「座ろうか」

 彼女が取り乱す前に、翔がそっと彼女を席へと促した。
 彼女も落ち着きを取り戻し、元の席に座った。その正面に、翔と小鳥は並んで座る。

 すぐにオーダーを取りに来た。翔も小鳥もブレンドを頼む。
 スタッフが去っても、思った通り。まともに向かい合った彼と彼女は黙っていて、目も合わせようとしなかった。

 翔は不安定そうな彼女を気遣って、どこから話を切り出したら良いのか解りかねているようで。彼女は言わなくてはいけないことをなかなか言えずにいるようだった。

 だからって小鳥もその間を取り持つなんて、若すぎる故に子供っぽいことを言い出したくなくて何も出来ずにいた。

 そのうちにオーダーした珈琲が来てしまう。

「あ。砥部焼きなんだ。素敵。場所とお店とすごく合っている」

 地元のせとものを茶器に使っていた。道後という観光地だから地物を上手く使っていて、しかも和食器だから和カフェにもレトロな町並みにもとても良く合っている。



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