愛シテアゲル


 その隣で翔が笑った。

「やっぱり小鳥はそっちが気になってしまうんだな」

 そう言いながら、窓際に揃えられているシュガーポットを取ってくれる。長い指先で小鳥の前に静かに置いてくれた。

 小鳥がシュガーを二つ入れると、翔はひとつ入れる。翔の前にあるフレッシュクリーム、彼はそれを自分が使うより先に小鳥の前に置いてくれる。小鳥もフレッシュクリームをたぷっり入れたら、すぐに彼の前に返す。そしてやっと翔は自分のカップに少しのフレッシュを注ぐ。

 いつもの何気ないやりとりだったのに。それを見ていた瞳子さんが、肩の力が抜けたように微笑んでいた。

「わかっていたのにね。翔のそういうところ」

 小鳥と翔は揃って何のことかとカップ片手に彼女を見ていた。

「翔の、そんな優しさとか、ちゃんと細やかに気遣ってくれているところ。わかっていたのにね」

 忘れていたことを思い出したかのように、彼女が目を細めていた。

「小鳥さん。お砂糖もふたつ、フレッシュもたっぷり入れたわね。彼女が沢山入れるから、まずは彼女から。残りはそんなに必要ない自分が使う。そういう『自分が先』じゃなくて、周りをよく見て誰がいちばんそれを必要としているか見ているの」

 元恋人の普段身に付いている気遣いを懐かしんでいる。




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