愛シテアゲル


「有り難みがなくなっていたの。有り難みどころか、もっともっと、翔ならもっともっと素敵なことを与えてくれると高望みばかりして」

 一口すするどころか、翔は手に取ったばかりのカップをソーサーに置いてしまう。
「それは俺も同じだ。なにもしてあげられなかった」

 小鳥の隣でお兄ちゃんが項垂れている。そして彼女は微笑んで首を振っている。
 見ていると、彼女がもう幾分か割り切れているように見えた。

「あの、瀬戸田君のことなんだけれど……」
「ああ。聞いた。社長から」

 そこでまた二人が黙る。英児父にだいたい話した彼女と、英児父からだいたい聞いた彼だから、改めて多くを話し合おうとしていなかった。それは小鳥も同じで、もう知っているから改めて問いただそうとも思わない。

「ねえ。瀬戸田君、どうなるの」

「まだ判らない。顧客が被害届を出したら警察沙汰、裁判沙汰になると思う。そうでなければ、弁護士を挟んで示談かな。改めて保険屋を挟んで損害の精算になると思う」

「滝田社長が、なるべく私の不利にならないようにすると言ってくれたんだけど」

 父親が彼女とそんな話し合いをしているのは、翔も小鳥もこの場で初めて聞いたこと。




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