愛シテアゲル


「そうか。大事になると、瞳子のことも表沙汰になるのか。ご主人に……」

 翔が口ごもる。その先を言うと彼女が不安がるだろうから。そして小鳥もここにきて、初めてハッとした。そうか。瞳子さんが翔兄を助けるような証言をすると、瀬戸田と不義理一歩手前まで足を突っ込んでいたことをご主人にばれてしまうのかと。

 父親が『おまえは子供だから』と言って、翔と彼女だけの話し合いにしようとしたのも、こういうことだったのかもしれない。

「でも、もういいの。なんだか疲れちゃった」

 そこで彼女がまた涙を蕩々と流し始めた。

「彼に自慢してもらいたい素敵な恋人になりたくて。自慢できる彼になってほしくて。それが叶わなかったらそこから逃げて、それを叶えてくれそうな男性に愛もないのに身を投げたのよ。身を投げたのに、それに見合う完璧な結婚生活にならない。夫と気持ちが通じない。私がやってきたのは、この年齢にはこうなっていなくちゃ……というハードルを跳んできたことだけ。だんだん躓くようになって、うまく飛べないのは、また夫のせい。ひとりで怒って文句を言って、また……自分に都合の良い男の人に……私は……!」

「じゃあ。ご主人に知られてもいいと……?」

 心配そうに翔が尋ねる。



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