愛シテアゲル
「小鳥?」
どんな顔をしていたのだろう。たぶん馬鹿みたいにうっとり惚けてただただ翔を見つめていたのだろう。彼が心配そうに小鳥の顔を覗き込んだ。
「なんだよ。そんな顔するなよ。見慣れているんだろ。『お父ちゃん』のとか、弟の」
「そ、そうだけど。ぜ、全然違うよ」
大学を卒業して龍星轟に来たばかりの時は、勉強ばかりしてきたいまどきの細身のお兄さんだと思っていた。
それから何年かして、整備という仕事柄、力がいるだろう腕が逞しくなっていくのを小鳥は見てきた。
だけれど長身のその肉体は、いつも整備服に包まれて隠されていた。彼をずっと見てきた小鳥の目には、腕が逞しくなってきた細身の背が高いお兄ちゃんぐらいの。
「知らない男を見るような、そんな顔するな。知らない男に抱かれるような、そんな顔」
俺が知っている小鳥の眼差しで、いつものように俺を見て欲しいのに。彼がそっと囁いた。少し怒った顔をするなんて……。まるで小鳥が知らないお兄さんに出会って、その男にのぼせあがっているのが許せないような顔をしている。
「今の私、翔兄を見て、ぼうってしているんだよ」
そんな意味不明な嫉妬心を見せた翔兄を思って、ついに小鳥は自分から彼の首に抱きついた。
「どうしよう。翔兄、もう私、どうしよう。だってお兄ちゃん、本当に素敵なんだもん」
先程までの恥じらいは、緊張はどこに行ったのだろう? 大好きなこの人に、自分がどれだけ大好きか知って欲しいと思った途端、小鳥の中から熱く溢れて流れ出ていく勢いで、彼を抱きしめている。
「好き、翔兄。大好き」
素肌の男に抱きついて、小鳥はつま先を立てて、彼の唇にキスをした。