愛シテアゲル
また彼女が目尻にこぼれた涙を拭った。
「だから。主人とうまくいっていない心の風穴を埋めるように、瀬戸田君の誘いに応えてしまったことも。拒絶するために翔の名を言ってしまったのも、正直に話したの。社長さん『やっぱりね』と……呆れられると思ったけれど、そうではなくて、自分の部下のせいではなかったと知ってホッとした顔していた」
そんな英児父の姿が娘の小鳥には、ふっと目に浮かんでしまう。部下を大事に思って、翔の心の負担を少なくしようとしてくれたその姿が。
それは翔も同じだったのか、上司の思いに触れ、その有り難さに静かにでも熱く震えているように見えた。
「私だけね。自分のことだけで、あてずっぽうに駆け回って押しつけがましいことをしているのは。そう思った。ほんとう……恥ずかしかった」
そして彼女が改めて背筋を伸ばし、小鳥と翔に向かう。
「本当に、申し訳ありませんでした。私のことはもうなにも気にしないで。主人とどうなろうとも、自分のことは自分でなんとかします」