愛シテアゲル
翔が合間に飲んでいた珈琲カップをテーブルに置く。
「小鳥がじゃない。俺が……なんだよ。おまえと別れて、おまえがあの部屋に来なくなって、おまえが選んだものばかりが残って。俺って、どこを見ていたんだろうなと寒くなったんだよ」
彼女がおかしそうに笑った。
「そりゃそうでしょう。女が去ったのに、女みたいな部屋に取り残されたんだもの」
「それと同時に。俺はここにはいなかったのかもしれないと思った。まるで瞳子の部屋。逆に瞳子にも俺はいなかったから、あの時の部屋は瞳子の住まいみたいになってしまったんだと」
八年も付き合ったのに、空気みたいになって、傍にその人がいるのに、結局自分たちがそれぞれが好む生活を隣でしていただけ。そう翔が付け加えた。
「ほんとね。なにもかも平行線だったね。翔は車が好きで外に出て行くばかりだったし、私は素敵な日常を自分専用の空間に蓄積していくだけで。ただ同じところにいて、ただ男と女がすることをしてきただけ」
また、彼女が小鳥を見た。
「目が生きているもの、翔の目がね。これでも八年も付き合ったから違いが判るのよ」
「目が生きている?」