愛シテアゲル


 小鳥にはわからない。ずっと前から彼の目は同じで変わったなんて思ったことがない。女として未熟ってこと?

「龍星轟という世界にいると目が生きるの。たぶん小鳥さんには当たり前の、毎日よく知っている目なのよ」

 生きている彼を毎日見てきたから当たり前。違いなどわかるはずもなかったらしい――。
 最後に瞳子さんが、珈琲カップに視線を落としながら、泣きそうな声で言った。

「でも。わかる。あの社長さんと、そのお嬢さんだもの。翔でなくても、私だって……。惹かれるもの。でも私の方が素晴らしいとあの時は……」

 それきり。彼女は涙を堪えるように黙り込んでしまった。

 窓の外は宵闇にほんのりと浮かび上がる道後本館、湯浴みに行く半纏と浴衣姿の観光客が通り過ぎるのが見え始めた。

 翔ももうなにも言わなかった。そして彼女も。
 八年の春に区切りをつけた男と女が語りたいものは、もうなにもないようで。
 これが『ピリオド』の瞬間なのか。
 自分のことではないけれど、やっぱり小鳥は泣きたくなった。

 

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