愛シテアゲル


「帰るか」
「うん」

 手をつないで、スープラをとめている駐車場へ向かう。
 白いトヨタ車の前まで来て、助手席側へと小鳥が向かおうとすると、離そうとした手を翔が強く握りしめ引き止めた。

「小鳥」

 温泉街の夜明かり、彼の向こうには、のぼりはじめたばかりの月があった。
 その月の下、妙に真顔になった彼が見つめてくれている。手をつないだまま、小鳥は首を傾げた。

「翔兄?」
「これで今度こそ本当に終わりだ」
「う、うん。そうだね」

 見届けたよ。ちゃんと。お兄ちゃんと瞳子さんのケジメ。今度こそ道を分かち、それぞれの道へ進み、その姿を確かめ互いにもう振り返らず見送った決意を。

「これから、小鳥とずっとふたりだ」
「そうだね」

 小鳥も感じている。この人はそうと決めてくれたら、車を愛するように脇目もふらず、小鳥だけを見てくれると。今度は小鳥も強く感じている。

 そんなわかりきったことを確かめてくる彼の目がとっても思い詰めていて、小鳥が不安になってくる。まだ、なにかあるの。大人の気持ちってそんなに一筋縄ではいかないものなの? 複雑なの?

「俺と一緒に暮らさないか」

 は? 小鳥は絶句し、目を大きく見開いた。

 一緒に暮らす? 大人の想いは複雑どころか、ものすごくすっ飛んだ予想外なところへ小鳥を連れていこうとしている!?




 
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