愛シテアゲル
彼が呆れた顔でため息をつくと、なんだががっかりしたようにスープラのボンネットに腰を落としてしまう。
「……だよな。やっぱり、小鳥はまだ若いんだな。結婚なんて考えたこともないか」
そう、考えたことなんてあるはずもない。夢見ることがあっても、つい最近まで小鳥の夢見るは結婚よりも、大好きな彼の『カノジョ』になることだったから。
「いいよ。小鳥。だけれど、大学を卒業したら俺と一緒に暮らしてくれないか」
「そ、そんなに今、決めなくちゃいけないこと?」
先をどんどん勝手に決められていくような錯覚に陥った。もちろん、大人の彼が結婚を考えるのは当たり前だと思ったし、夢見ていたことがいっぺんにやってきたみたいで嬉しい、でも!
「俺と小鳥。やっぱり年の差あるな」
翔には自然に考えていたことで、でも小鳥には思い付かないことと言いたいらしい。
きっと。きっと。お兄ちゃんのことだから、家探しをしている時から、もう小鳥のことを考えながら決めていたのかもしれない。
突然じゃない。お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに、三十歳の男が考えることを考えて準備をしてきただけの……。
なのに。噛み合わなかった。同世代の女に言えば、喜んでくれるだろう申し出も、十歳年下のまだ学生である彼女には喜ぶ前に戸惑いの種になるだけの……。